« 安藤健二(2006)『封印作品の謎2』太田出版(2006.3.21初版発行) | トップページ | 宮崎哲弥(2006)『新書365冊』朝日新書(2006.10.30初版発行) »

2006年11月22日 (水)

田村秀(2006)『データの罠 世論はこうしてつくられる』集英社新書(2006.9.20初版発行)

Dsc02082  メインタイトル「データの罠」に惹かれて読んだが、どうも内容のメインは「世論はこうしてつくられる」のようである。
 タイトルによってうまく操作されてしまったようだ。

 前半は確かに「統計データ」の問題点―調査方法の問題やデータの読み取りの問題など―を的確に分かりやすく書いている。
 下記の谷岡(2000)、また古いがダレル・ハフ(1968)同様に、統計にだまされるな、注意せよということが書かれている。
 谷岡一郎(2000)『「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ』文春新書(2000年6月20日)
 ダレル・ハフ著、高木秀玄訳(1968)『統計でウソをつく法 数式を使わない統計学入門』講談社ブルーバックス(1968.7.24初版発行)
 
 しかし、第2章以降には、選挙の出口調査、都道府県ランキング、経済効果などの調査方法自体の問題点、日本人の英語力や在日米軍の事件・事故などのデータは最初からある目的に沿って作られている(偽装、歪め)こと、中央省庁の人員削減や日本のインフラ整備などの統計もごまかしがあることなどが書かれている。
 どうも、政治や経済施策に関して、データが客観的なふりを装わされて使われている、悪用されていることを示すことによって、そのような悪用されたデータに惑わされることなく、政治や経済施策を正しい方向に向けさせることが主眼のようだ。
 
 裏表紙記載の著者の略歴を見ると、「東京大学工学部卒業。自治省入省、香川県企画調整課長、三重県財政課長を経て、新潟大学大学院実務方角研究科助教授。」となっている。統計の専門家というよりも、どうも政治志向の公務員そして現在大学助教授であるようだ。
 
 前半の統計調査やデータの問題点から、役立つ教訓をいくつか引用する。
 「ある比率の精度をプラスマイナス5%の誤差で推定する場合、母集団が大きくても四〇〇弱(正確には三八四程度)のサンプルを無作為抽出すれば十分だといわれている。例えば四〇〇人の日本人成人を無作為抽出で選んで、憲法改正に賛成ですかと質問して、45%(一八〇人)が賛成と答えた場合、実際の母集団(日本人成人)の賛成が50%超または40%未満となる確率はわずか5%以下である。
 また、精度を五倍に、つまり精度を1%近くまで高めるためには、サンプル数はだいたい5の二乗の25倍必要となる。川崎市のように二〇歳以上が一〇〇万人前後と母集団が十分に大きい場合でも、384×5×5=9,600≒10,000となるため、一万人の無作為抽出を行うことで、精度を1%程度にまで高められることになる。」(22-23頁)
 
 「世論調査をはじめとするアンケートの有効回答率については、60%以上必要であるという指摘もある。少なくとも50%を切るような回答率では、結果を相当に割り引いて、参考程度とせざるをえない。」(24頁)
 
 ●「大切なのは数の多さではない。有効回答率であり、調査の質なのである。」(26頁)
 
 (ある自治体での県民アンケートについて)「どうもこの調査の担当者は、社会調査のイロハをまったく理解していなかったようである。」(29頁)
 ●これには大賛成。こんなに設問が複雑で多いアンケートなんかまともに答える人がいるのだろうか、回収率は相当低くなることは最初から予想されるのによくこんなアンケートを実施するな、誘導尋問ミエミエの設問文はよくも書けるな、など税金の無駄遣いのアンケート調査が、国や地方の行政機関でやたらめったら行われている。
 ●アンケート調査をするなら、税金の無駄遣いにならないように、まっとうな方法でやってもらいたい。
 ●ただ、アンケート調査を行う目的が、自分の都合のよい結論を出すために、客観性を装った統計データを悪用するためであれば、行政機関のアンケートはその目的にまさしく合致している。
 ●案外、調査の担当者は、すべて知っていて、敢えて行っているのかもしれない。
 
 「この手の調査(引用者注:インターネット調査)は、あくまで特定の意思を持つグループを対象としたものにすぎないのである。基本的にはインターネット調査はモニター調査なのであり、世論調査と同一視してはいけない。」(44頁)
 
 「テレゴングは、確かに簡単に視聴者の声を測定できるというメリットはあるが、それはあくまでも特定の層の声であり、決して世論の声にはなりえない。」(49頁)
  
 「TOEICの国際比較で用いられているのは、日本の場合、IPテストの結果のみである。」(130頁)
 ●日本人の英語力の低さを示すデータとして、TOEFLのほかにTOIECの試験結果のデータが示されることが多い。TOEFLはそもそも国によって受験者層が異なっている(つまり日本はもともと英語力の低い受験者も受験するが、そうした層がそもそも受験しない国の方が多い。)。TOIECについても(企業や学校単位で受験する団体特別受験制度=言わば強制的な受験で、もともと英語力の低い、あるいは意欲の低い層を含む)IPテストの結果だけを比べて日本が低いと言われる。しかし、(個人が自主的に受ける=ある程度勉強しており、意欲が高い)公開テストの受験者のデータを見ると、「アジアの中でも上位に位置する」(131頁)という。
 「日本以外の国々のTOEFLやTOEICの平均点が、それぞれの国の平均的な英語力を示していることはありえない。相当の額の受験料を払ってまで受けようとする、あくまでも英語力向上に意欲のある人々、あるいは試験を受ける必要に迫られた人々の平均点と考えるのが無難である。」(132頁)
 
 ●ただ、(日常的には英語は使わない、英語とは言語構造の大きく隔たった韓国語・日本語である、受験者層も共通性が大きい韓国と日本を比べた場合)韓国の方が、日本より成績がよい点については、真面目に考えなければならないであろう。韓国の英語教育から学ぶことは多いのではなかろうか。日本国内では何故か注目されないようであるが。残念である。

 「終章 データの罠を見抜くためには」(195-199頁)には、上述のことも含め「データの裏側に潜む巧妙な罠」(203頁)に引っかからないようにするためのポイントが纏められている。ともて分かりやすく親切である。

|

« 安藤健二(2006)『封印作品の謎2』太田出版(2006.3.21初版発行) | トップページ | 宮崎哲弥(2006)『新書365冊』朝日新書(2006.10.30初版発行) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/37002/4272445

この記事へのトラックバック一覧です: 田村秀(2006)『データの罠 世論はこうしてつくられる』集英社新書(2006.9.20初版発行):

» 【統計マジックに御用心】データの罠 [ぱふぅ家のサイバー小物]
統計マジック=仕事でデータ解析システムを穀zしたり、また、データに基づく事業計画を立てるとき、常に頭をよぎる言葉である。 [続きを読む]

受信: 2006年12月17日 (日) 09時52分

» 「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ/谷岡一郎 [仮想本棚&電脳日記]
「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ/谷岡一郎 「世の中に蔓延している「社会調査」の過半数はゴミである。」 たしかにそう思います。 [続きを読む]

受信: 2007年1月14日 (日) 20時12分

» データの罠 世論はこうしてつくられる [こんな本を読んできた]
ニュースやなんかで出てくるデータを鵜呑みにするなという話。業務上、実験データや解析データを読み砕く機会が多く、統計の知識も身に付いているので、本書の内容は新しく知り得た話ではなかった。(エンジニアは実験データの真の意味を解釈したり、間違いを読み解くこと...... [続きを読む]

受信: 2007年2月14日 (水) 21時53分

« 安藤健二(2006)『封印作品の謎2』太田出版(2006.3.21初版発行) | トップページ | 宮崎哲弥(2006)『新書365冊』朝日新書(2006.10.30初版発行) »